はじめに
「ナイスショット!」「ナイスイン!」──日本のゴルフ場では当たり前のように聞こえる掛け声。
しかし、これらの多くは英語圏ではほとんど使われない和製英語です。
つまり、日本独自に生まれ、広まった“英語風の日本語”が、ゴルフ文化の中に深く根を下ろしているのです。
なぜそんな現象が起きたのか?
背景には、戦後の歴史、英語教育の状況、日本語の特性、そしてゴルフ業界の事情が複雑に絡み合っています。
1. 戦後に独自に広まったゴルフ文化
1-1 ゴルフの再普及は米軍から
日本でゴルフが再び広まったのは第二次世界大戦後。
敗戦直後、米軍が接収したゴルフ場を利用し、アメリカ人将校やその家族がプレーを楽しむ光景が日本人の目に入るようになりました。
1-2 富裕層からビジネス層へ
当初は企業経営者や政治家といった限られた層の娯楽でしたが、
高度経済成長期に入ると、ゴルフはビジネスの接待ツールとしても普及。
この時期、企業ぐるみでゴルフを覚える人が急増しました。
1-3 英語の知識は乏しい時代
しかし当時の日本は、現在ほど英語教育が行き届いておらず、ネイティブ発音や正しい用法の知識が不足していました。
そのため、耳で聞いた英語をカタカナ化し、日本語に取り込む形で用語が広まっていきました。
2. 日本語に合わせた“英語風”アレンジ
2-1 ナイスショット現象
例えば「ナイスショット」。
直訳すると”Nice shot”ですが、英語圏ではもっと自然なのは**”Great shot!”や“Well done!”**。
しかし「ナイス〜」という言い回しは、日本語の会話リズムに合っていて覚えやすかったため、瞬く間に全国のゴルファーに浸透しました。
2-2 他競技にも波及
この表現はゴルフに限らず、野球では「ナイスバッティング」、サッカーでは「ナイスパス」、バレーでは「ナイスレシーブ」など、さまざまな競技に広がっています。
つまり、ゴルフ用語の和製英語化は、日本のスポーツ文化全体にも影響を与えているのです。
3. 指導者・メディアの影響
3-1 英語力より技術重視の指導者
戦後のゴルフ指導者は、必ずしも英語に堪能だったわけではなく、
英語原語に忠実な用語よりも、自分たちが理解しやすく、教えやすい言葉を選びました。
3-2 ゴルフ雑誌とテレビの力
1960〜80年代のゴルフ雑誌やテレビ中継が、和製英語を一気に全国区へ。
「ナイスイン」「チョロ」「ガードバンカー」といった表現が誌面や放送で多用され、一般プレーヤーの間で当たり前の言葉になっていきました。
4. ゴルフ場・競技運営での定着
競技中のマーカー記入、アナウンス、キャディとの会話など、現場でも和製英語が日常的に使用されました。
そのため、初心者も自然に耳にして覚え、次の世代へと受け継がれる形になったのです。
5. 海外では通じない!? 和製英語の具体例
日本の表現(和製英語) | 英語圏での自然な言い方 |
---|---|
ナイスショット | Great shot! / Well done! |
ナイスイン | Nice putt! / Well played! |
OBライン | Out of bounds |
アゲンスト | Into the wind |
トップした | I topped the ball. |
チョロ | Hit a duff / mishit |
ガードバンカー | Greenside bunker |
6. 英語と日本語の「文法感覚」の違い
英語は動作や主語を明確にし、日本語は状況や雰囲気を共有する傾向があります。
そのため、日本語のゴルフ会話では短く響きの良いカタカナ英語が好まれたのです。
7. まとめ:和製英語が多い4つの理由
- 戦後独自に広まったゴルフ文化と英語知識の不足
- 日本語に馴染むカタカナ英語文化
- 指導者・メディアによる誤用の普及
- ゴルフ場・大会運営での口語化と定着
8. 海外でプレーするときの注意点
海外ゴルフでは和製英語は通じません。
英語圏でのプレーを予定している方は、正しい英語フレーズを覚えておくことが大切です。
例えば「ナイスショット!」ではなく”Great shot!”、
「アゲンストだ!」ではなく”It’s against the wind.”と言いましょう。