尾崎将司という「巨人」――その死と語り継がれる哲学
2025年12月23日、プロゴルファーの尾崎将司さんが、S状結腸がんのため78歳で逝去されました。「ジャンボ」の愛称で知られる尾崎さんは、1970年代から日本ツアーを牽引し、国内通算94勝という圧倒的な実績を誇る、日本ゴルフ界の象徴的存在です。
その豪快なスイング、孤高の姿勢、独自の美学は、多くの人々にとってただのアスリートを超えた「生き方の象徴」でした。
そんな彼が残した名言があります。
100を切るのに、趣味を捨てた。
90を切るのに、友達を捨てた。
80を切るのに、家族を捨てた。
70を切ったら、すべてが返ってきた。
この言葉には、スコアに対する覚悟と、人生の優先順位を考えさせる深い意味が込められているように思います。本記事ではこの名言をもとに、ゴルフ100切りに挑むアマチュアゴルファーに向けた、実践と哲学を交えた「極意」をご紹介していきます。
100切りは「スコア」ではなく「選択」の連続です
尾崎プロの名言は、単なる犠牲の話ではありません。「何かを捨てる」というのは、何かを選び取るということでもあります。時間、集中力、体力、情熱。人生の限られたリソースを何に配分するのか。100を切るには、まず「ゴルフの優先順位を自分の中で上げる」という決断が必要になります。
日々の忙しさの中で、ゴルフにかける時間をどう確保するか。趣味のひとつとして適当に付き合っているうちは、100切りは遠いままかもしれません。100を切るということは、「自分は本気でやっている」と言えるほど、ゴルフに向き合うという覚悟なのです。
「捨てる」ことで得られるもの
この名言の面白いところは、70を切ったときに「すべてが返ってきた」と締めくくられている点です。つまり、捨てたものは失ったのではなく、あとから戻ってくる。むしろ、より深く、より豊かになって返ってくる。これは人生にも通じる真理ではないでしょうか。
たとえば、100を切るために趣味を控えたことで、時間と集中力がゴルフに向き、その成果によって自信が育まれ、日常にも良い影響を与えた。90を切るために仕事を調整したことで、時間管理の力が養われ、結果的に本業にも良い影響を与えることになった。
尾崎プロの「犠牲」は、実際には「自己投資」と言い換えるべきかもしれません。
スコットランドの格言との違い
スコットランドの古いゴルフ格言には、次のようなものがあります。
ハンディキャップ30台:ゴルフをバカにしている
20台:仕事を犠牲にしている
10台:家庭を犠牲にしている
シングル:すべてを犠牲にしている
こちらは、ストイックで少し皮肉の効いた、伝統的な価値観のにじむ名言です。しかし、尾崎将司プロの言葉は違います。
スコットランドの格言が「犠牲の積み重ねによるストイックな達成」を強調しているのに対し、尾崎プロの言葉には「捨てたものは戻ってくる」という希望が含まれています。つまり、尾崎プロの名言は、「覚悟」と「報い」を同時に語っているのです。
実際のゴルフ100切りに必要なこと
名言の哲学的な側面に触れたところで、現実のゴルフの話に戻りましょう。100を切るためには、何を「捨て」、何を「選び」、どう行動すればよいのでしょうか?
1. 時間の再設計
まず必要なのは、練習時間の確保です。週に1回ラウンドするだけでは100切りは難しいでしょう。日常生活の中に「ゴルフのための時間」をどう差し込むか。これが第一のハードルになります。
- 朝の15分を素振りに使う
- 通勤中にパター動画を観る
- 週に1回は打ちっぱなしに行く
「忙しいから無理」ではなく、「どうすれば捻出できるか」を考えることが大切です。
2. 練習の質を変える
100切りに必要なのは、飛距離ではありません。
- OBを減らす方向性の安定
- グリーン周りでのアプローチ精度
- 3パットを防ぐ距離感
これらを意識した練習を繰り返すことで、「無駄なミス」を減らすだけでスコアは大きく改善します。派手なスイングではなく、地味な積み重ねが効いてくるのです。
3. 家族・友人とのバランス
尾崎プロは「家族や友人を一時的に“捨てた”」と語りました。しかし、これは決して関係を壊したという意味ではないはずです。
たとえば、
- 家族に「今、100切りを目指していて、少しだけ練習時間が増えることを理解してほしい」と伝える
- 友人との飲み会を月1回にして、代わりに週1回の打ちっぱなしに行く
こうした「一時的な調整」は、真剣に取り組む人ほど必要な選択です。そして、それは必ず周囲にも伝わります。
尾崎将司が教えてくれた「ゴルフの向こう側」
尾崎さんの人生は、ゴルフにすべてを賭けた人生でした。しかしその代わりに、彼は「すべてを得た」とも言えるでしょう。
技術、名声、誇り、そして人々の記憶に残る言葉。
私たちは、そこまでの道を歩むわけではありません。でも、尾崎プロの名言を自分なりに噛みしめて、「今、自分が本当に目指すゴルフは何なのか?」と問い直すことはできるはずです。
ゴルフは、人生の縮図です。
100を切るという小さな目標の中にも、大きな気づきと選択が詰まっています。
その第一歩として、今日の練習がある。
その一打に込められた思いが、明日のスコアを変える。
そして、気づいたときには「失ったと思っていたもの」が、
少しずつ自分の元に戻ってきているかもしれません。
ゴルフは、そういうゲームのようです。
